ボーアの原子模型
バルマーの公式
水素原子が放出する光の波長について、可視光線の4本の線スペクトルの波長は以下の規則に従います。
$$
\lambda_n=364.56\frac{n^2}{n^2-4}\space \text{nm}\quad(n=3,4,5,6)
$$
リュードベリの公式
波長の逆数を用いると、水素原子の線スペクトルを少数の項で説明できます。
$$
\frac{1}{\lambda_n}=R_H\left( \frac{1}{n’^2}-\frac{1}{n^2} \right)
\quad
\begin{cases}
n’&=1,2,3,\dots \\
n&=n’+1,n’+2,\dots
\end{cases}
$$
ここで、$R_H$はリュードベリ定数です。
バルマーの公式はリュードベリの公式の特別な場合になっています。
バルマーの公式で両辺の逆数を計算すると、
$$
\begin{align}
\frac{1}{\lambda_n}&=\frac{1}{364.56}\frac{n^2-4}{n^2} \\
&=\frac{1}{364.56}\left( 1-\frac{4}{n^2} \right) \\
&=\frac{1}{364.56}\cdot 4\left( \frac{1}{4}-\frac{1}{n^2} \right) \\
&=\frac{1}{364.56}\left( \frac{1}{2^2}-\frac{1}{n^2} \right)
\end{align}
$$
ボーアの原子模型
前提条件
- 原子は数多くの定常状態(stationary state)をとることができる。
定常状態においては、電子はニュートン力学に従って軌道運動する。 - 原子がある定常状態から別の定常状態に移ることは、電子が一つの軌道から別の軌道に移る(遷移(transition))ことに対応して起こる。
そのとき一つの光子が放出される。
光子のエネルギーは原子の二つの定常状態のエネルギーの差に等しく、振動数は$E=h\nu$で決まる。
水素原子の例

電子に作用する力は、
$$
F=ma=\frac{mv^2}{r}=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0 r^2}
$$
$\epsilon_0$は真空の誘電率です。
この力のポテンシャル$U(r)$は
$$
U(r)=-\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{r}
$$
なので、電子のエネルギーは、
$$
\begin{align}
E&=\frac{1}{2}mv^2-\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0 r} \\
&=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0 r}-\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0 r} \\
&=-\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0 r}
\end{align}
$$
水素原子がある決まった波長の光だけを放出するという事実から、原子の中の電子に対して、不連続な特定のエネルギーをもつ軌道だけが許されると考えます。
水素原子のスペクトル項を区別する$n$に対応したエネルギー状態に制限します。
- $n=1$は最小の軌道半径をもつ最もエネルギーが低い状態
- $n=2$は次に小さい軌道半径をもつ2番目にエネルギーが低い状態
$n=n_i$から$n=n_f$ ($n_i > n_f$)へ電子が移るとき、光子が一個放出され、そのエネルギーは二つの軌道のエネルギーの差に等しくなります。
$$
\begin{align}
E&=\frac{hc}{\lambda} \\
&=E_i-E_f \\
&=-\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0}\left( \frac{1}{r_i}-\frac{1}{r_f} \right) \\
&=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0}\left( \frac{1}{r_f}-\frac{1}{r_i} \right)
\end{align}
$$
軌道半径が$n^2$に比例するなら、光子の波長の逆数を
$$
\frac{1}{\lambda_n}=R_H\left( \frac{1}{n’^2}-\frac{1}{n^2} \right)
$$
の形で表せるので、$r_n=a_Bn^2\quad(n=1,2,3,\dots)$とします。
$a_B$は最小の軌道半径で、ボーア半径(Bohr radius)と呼ばれます。
$$
\begin{align}
E&=\frac{hc}{\lambda_n} \\
&=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0}\left( \frac{1}{r_f}-\frac{1}{r_i} \right) \\
&=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0 a_B}\left( \frac{1}{n_f^2}-\frac{1}{n_i^2} \right) \\
\end{align}
$$
なので、
$$
\frac{1}{\lambda_n}=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0hca_B}\left( \frac{1}{n_f^2}-\frac{1}{n_i^2} \right)
$$
リュードベリ定数$R_H$は
$$
R_H=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0hca_B}
$$
と表すことができます。
ボーアの量子条件
ボーア半径$a_B$が未知の値なので、リュードベリ定数$R_H$の値はまだわかりません。
リュードベリ定数を求めるため、もう一つ前提条件を追加します。
電子が軌道を一周する前と後で位相が同じになっていると仮定します。
つまり、軌道の一周の長さが、ド・ブロイ波の波長$\lambda=\frac{h}{mv}$の整数倍になっているものとします。
電子が一周する前と後で位相がずれていると打ち消し合ってしまうためです。
$2\pi r=n\lambda=n\frac{h}{mv}$なので、
$$
mvr=\frac{nh}{2\pi}=n\hbar
$$
より、
$$
v=\frac{n\hbar}{mr}
$$
です。
電子の運動方程式より、
$$
\begin{align}
&\frac{mv^2}{r}=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r^2} \\
&\frac{m}{r_n}\left( \frac{n\hbar}{mr_n} \right)^2=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r_n^2} \\
&\frac{n^2\hbar^2}{r_nm}=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \\
&\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}r_n=\frac{n^2\hbar^2}{m} \\
&r_n=\frac{n^2\hbar^2}{m}\frac{4\pi\epsilon_0}{e^2}=\frac{n^2h^2\epsilon_0}{\pi me^2}
\end{align}
$$
したがって、ボーア半径$r_1$は、
$$
r_1=\frac{h^2\epsilon_0}{\pi me^2}
$$
となります。
以上より、リュードベリ定数$R_H$は、
$$
\begin{align}
R_H&=\frac{e^2}{8\pi\epsilon_0hc}\cdot\frac{\pi me^2}{h^2\epsilon_0} \\
&=\frac{me^4}{8\epsilon_0^2h^3c} \\
&\approx 1.10\times10^7\space\text{m}^{-1}
\end{align}
$$
となります。