格変化─生格
生格(роди́тельный паде́ж; genitive)には様々な用法があります。
所属「〜の」
まず重要な用法として、所属「~の」といった意味を表すことができます。
日本語なら「AのB」、英語なら"B of A"にあたる意味を、ロシア語ではAを生格にすることで表現します。
この際、名詞Bの後ろに生格の名詞Aを置くのが基本です。
生格は所属を表すことから、他の言語では属格と呼ばれることもあります。
以下に挙げる例が厳密に所属を表しているかどうかは怪しいですが、«чего?»「何の?」または «кого?»「誰の?」という問いに答える用法です。
- населе́ние Росси́и「ロシアの人口」
- уче́бник ру́сского языка́「ロシア語の教科書」
- Сою́з Сове́тских Социалисти́ческих Респу́блик「ソビエト連邦(=ソビエト社会主義共和国の連邦)」
ソビエト連邦は略してСССР (SSSR)と表記することもあります。
СССРだと発音しにくいので、発音はССРとすることもあります。
生格の名詞を後ろに置くのが基本ですが、前に置くことがないわけではありません。
詩歌では生格の名詞が前に来る表現を見かけることもあります。
- бра́тских наро́дов сою́з веково́й「世紀にわたる兄弟なる人民の連合」
- любви́ слова́, что взя́ты так сме́ло「大胆にとられた愛の言葉」
なお、「AのB」という場合のAが人称代名詞の場合は、人称代名詞の生格ではなく所有代名詞を使用します。
- мой друг「私の友だち」
- твоё имя「君の名前」
前置詞とともに用いる
多くの前置詞は生格を要求します。
- без меня「私なしで」
- о́коло школы「学校の近くで」
- от утра́ до утра́「朝から(次の日の)朝まで」
- с нача́ла до конца́「始めから終わりまで」
存在しないものを表す
存在しないものは生格で表します。
所有文や存在文の否定「AはBを持っていない」「AにはBがない」では、Bは存在しないものなので、主格ではなく生格で表します。
- У меня нет учебника.「私は教科書を持っていません」
- В классе не́ было учи́теля.「教室に先生はいませんでした」
存在してほしくないものも生格で表します。
- Я бою́сь соба́к.「私は犬が怖い」
- Я хочу избега́ть тру́дностей.「私は困難を避けたい」
боя́ться「恐れる」とизбега́ть「避ける」はどちらも生格の目的語をとります。
どちらの動詞も存在してほしくないものについて述べているので、目的語が生格になると考えられます。
例外として、ненави́деть「憎む、嫌いだ」の目的語は対格になります。
無理やり仮説を立てると、ненави́детьの場合は対象の存在を明確に認識しているため、生格ではなく対格になるのでしょうか。
- Я ненави́жу это.「私はそれが嫌いです」
存在してほしいと願っているが存在していないものも生格で表します。
- Я жду вашего отве́та.「私はあなたの答えを待っている」
- Мы и́щем но́вой кварти́ры / но́вую кварти́ру.「私たちは新しいアパートを探している」
- Всего́ хоро́шего.「幸運を(=すべてのよいことを)」
最初の例では登場する動詞ждать「待つ」は生格の目的語をとります。
待っている対象はまだ目の前に存在していないため、生格になると考えられます。
二番目の例も同じで、探している対象はまだ存在することを認識できていないので、生格になると考えられます。
иска́ть「探す」の場合は、目的語に生格ではなく対格をとることもできます。
三番目の例は、存在してほしいと願っているものを表しています。
省略されている語を補うと、"Я жела́ю вам всего хорошего."「私はあなたにすべてのよいことを願っている」(I wish you all the best.)となります。
余談ですが、ロシア語字幕のついた日本のアニメを見たことがあって、そこでは「お疲れ様です」がВсего хорошегоと翻訳されていました。
数を表す語とともに用いる
数を表す語、たとえばмно́го「たくさん」、немно́го「少し」、не́сколько「いくつかの」などは生格をとります。
可算名詞の場合は複数生格、不可算名詞の場合は単数生格とします。
- много веще́й「たくさんのもの」
- немного молока́「少しの牛乳」
- несколько люде́й「何人かの人々」
また、1以外の数詞に続く名詞も生格になります。
2, 3, 4に続く名詞は単数生格、それ以外は複数生格となります。
数詞については別の章で解説します。
- оди́н ма́льчик「一人の少年」
- два́ ма́льчика「二人の少年」
- три ма́льчика「三人の少年」
- четы́ре ма́льчика「四人の少年」
- пять ма́льчиков「五人の少年」
否定文の目的語として用いる
否定文の目的語は生格になることがあります。
具体的に言うと、対格の目的語をとる動詞を否定すると目的語が生格になることがあります。
- Я знаю пра́вду.「私は真実を知っています」
- Я не знаю пра́вды.「私は真実を知りません」
目的語が生格になるのは、その目的語をとる動詞が直接неで否定されている場合のみです。
- Я не делаю этого.「私はこれをしません」
- Я не могу делать это.「私はこれをすることができません」
э́тогоはэ́тоの生格です。
二番目の例で否定されているのはделатьではなくмогу (мочь)なので、否定文になっても目的語は対格のままです。
ただし実際には、二番目のような場合でも目的語を生格にする例も多く見かけます。
- Я не могу делать этого.「私はこれをすることができません」
- Я бо́льше не могу этого терпе́ть.「私はもうこれに耐えられません」