質点のまわりの重力場(シュワルツシルト解)

前回は線形化アインシュタイン方程式の右辺が0の場合について紹介しました。
今回は原点に静止している質点を想定してこの方程式を解いてみたいと思います。

方程式を解くにあたって、以下の条件を前提とします。

  • 質点が作る重力場は球対称
  • 質点が作る重力場は静的($\partial_t\psi_{\mu\nu}=0$)
  • 無限遠では計量$g_{\mu\nu}$が平坦計量$\eta_{\mu\nu}$に一致する

線形化アインシュタイン方程式は以下のようなものでした。

$$
-\frac{1}{2}\Box\psi_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}
$$

この式より、

$$
\Box\psi_{\mu\nu}=(-\partial_t^2+\Delta)\psi_{\mu\nu}=-\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}
$$
ここで登場する$\Delta$はラプラス演算子で、$\Delta\equiv\partial_x^2+\partial_y^2+\partial_z^2$です。

$\partial_t\psi_{\mu\nu}=0$という前提条件を課したので、この方程式は、

$$
\Delta\psi_{\mu\nu}=-\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}
$$

となります。

原点に静止している質量$M$の質点に対応するエネルギー・運動量テンソルは

$$
\left\{
\begin{align*}
&T_{00}=Mc^2 \\
&T_{\mu\nu}=0\quad((\mu,\nu)\neq(0,0))
\end{align*}
\right.
$$

なので、

$$
\left\{
\begin{align*}
&\Delta\psi_{00}=-\frac{16\pi G}{c^4}\cdot Mc^2=-\frac{16\pi GM}{c^2} \\
&\Delta\psi_{\mu\nu}=0\quad((\mu,\nu)\neq(0,0))
\end{align*}
\right.
$$

ガウスの発散定理を用いて$\psi_{00}$を求めていきます。


ガウスの発散定理

面積分と体積分の関係を表す式で、以下が成り立ちます。

$$
\int_S\boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S}=\int_V\mathrm{div}\boldsymbol{E}\;dV
$$

右辺に登場する$\mathrm{div}\boldsymbol{E}$は以下のようなものです。

$$
\mathrm{div}\boldsymbol{E}=\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\frac{\partial E_x}{\partial x}+\frac{\partial E_y}{\partial y}+\frac{\partial E_z}{\partial z}
$$

余談ですが、管理人はこの定理にたどり着くまでに三日くらい費やしました。
参考資料にはガウスの法則と書いてあったので、電磁気学で登場する「閉曲面を貫く電気力線の本数は閉曲面内に存在する電荷に比例する」という法則を使うのだと思いこんでいました。
あれこれ調べてどうにかそのガウスの法則を無理やり今回のパターンに適用できないか試みたものの、いい感じの説明ができず途方に暮れていたところでした。
Google検索の結果に偶然ガウスの発散定理に関するページが出てこなければ、今もまだ悩んでいたところでしょう…。


ガウスの発散定理より、

$$
\int_V\Delta\psi_{00}dV=\int_V\nabla\cdot\nabla\psi_{00}dV=\int_S\nabla\psi_{00}dS
$$

ここでの$V$は半径$r$の球、$S$はその球の表面です。

ここで、$\nabla=\frac{\partial}{\partial x}+\frac{\partial}{\partial y}+\frac{\partial}{\partial z}$を極座標で表すと、

$$
\nabla=\frac{\partial}{\partial r}+\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial\theta}+\frac{1}{r\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\phi}
$$

となります。
導出は割愛しますが、気になる方は各自で調べてください。

質点のまわりの重力場は球対称であると仮定したので、$\frac{\partial\psi_{00}}{\partial\theta}=0$、$\frac{\partial\psi_{00}}{\partial\phi}=0$となることより、

$$
\nabla\psi_{00}=\frac{\partial\psi_{00}}{\partial r}
$$

となります。

これを先程の式に代入して計算すると、

$$
\int_S\nabla\psi_{00}dS=\int_S\frac{\partial\psi_{00}}{\partial r}dS=4\pi r^2\frac{\partial\psi_{00}}{\partial r}
$$

一方、$\int_V\Delta\psi_{00}dV=\Delta\psi_{00}$ (原点以外は真空であり、$T_{00}=0$のため)なので、

$$
4\pi r^2\frac{\partial\psi_{00}}{\partial r}=-\frac{16\pi GM}{c^2}
$$

より、

$$
\frac{\partial\psi_{00}}{\partial r}=-\frac{4GM}{c^2}\frac{1}{r^2}
$$

したがって、

$$
\psi_{00}=\int(-\frac{4GM}{c^2})\frac{1}{r^2}dr=\frac{4GM}{c^2}\frac{1}{r}+C_1
$$

$C_1$は定数です。

ここで、$h_{00}$を計算してみたいと思います。
$h_{\mu\nu}=\psi_{\mu\nu}-\frac{1}{2}\psi\eta_{\mu\nu}$で、$\psi=\eta^{\mu\nu}\psi_{\mu\nu}=\eta^{00}\psi_{00}=-\psi_{00}$なので、

$$
\begin{align*}
h_{00}&=\psi_{00}-\frac{1}{2}\psi\eta_{00} \\
&=\psi_{00}-\frac{1}{2}(-\psi_{00})\cdot(-1) \\
&=\frac{1}{2}\psi_{00} \\
&=\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}+\frac{C_1}{2}
\end{align*}
$$

$r\to\infty$で計量$g_{\mu\nu}=\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu}$が平坦計量$\eta_{\mu\nu}$に一致すると仮定したので、$h_{00}\to 0$となる必要があります。
このことより、$C_1=0$となることがわかります。

ここまでの議論をまとめると、$h_{00}$は、

$$
h_{00}=\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}
$$

それ以外の成分は、

$$
\begin{align*}
h_{ij}&=\psi_{ij}-\frac{1}{2}\psi\eta_{ij} \\
&=-\frac{1}{2}(-\psi_{00})\delta_{ij} \\
&=\frac{1}{2}\psi_{00}\delta_{ij} \\
&=\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}\delta_{ij}
\end{align*}
$$

したがって、

$$
\begin{align*}
ds^2&=(\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu})dx^{\mu}dx^{\nu} \\
&=(-1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})\delta_{ij}dx^idx^j \\
&=-(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})\delta_{ij}dx^idx^j \end{align*}
$$

$\delta_{ij}dx^idx^j=dx^2+dy^2+dz^2$の部分も極座標で表現します。
三次元の極座標は以下のように表されます。

$$
\left\{
\begin{align*}
x&=r\sin\theta\cos\phi \\
y&=r\sin\theta\sin\phi \\
z&=r\cos\theta
\end{align*}
\right.
$$

まず、それぞれの全微分を計算します。

$$
\left\{
\begin{align*}
dx&=\sin\theta\cos\phi dr+r\cos\theta\cos\phi d\theta-r\sin\theta\sin\phi d\phi \\
dy&=\sin\theta\sin\phi dr+r\cos\theta\sin\phi d\theta+r\sin\theta\cos\phi d\phi \\
dz&=\cos\theta dr-r\sin\theta d\theta
\end{align*}
\right.
$$

$dx^2,dy^2,dz^2$をそれぞれ計算します。

$dx^2$は

$$
\begin{align*}
dx^2&=(\sin\theta\cos\phi dr)^2+(r\cos\theta\cos\phi d\theta)^2+(r\sin\theta\sin\phi d\phi)^2 \\
&\qquad+2rdrd\theta\sin\theta\cos\theta\cos^2\phi-2rdrd\phi\sin^2\theta\cos\phi\sin\phi \\
&\qquad-2r^2d\theta d\phi\cos\theta\sin\theta\cos\phi\sin\phi
\end{align*}
$$

$dy^2$は

$$
\begin{align*}
dy^2&=(\sin\theta\sin\phi dr)^2+(r\cos\theta\sin\phi d\theta)^2+(r\sin\theta\cos\phi d\phi)^2 \\
&\qquad+2rdrd\theta\sin\theta\cos\theta\sin^2\phi+2rdrd\phi\sin^2\theta\sin\phi\cos\phi \\
&\qquad+2r^2d\theta d\phi\cos\theta\sin\theta\sin\phi\cos\phi
\end{align*}
$$

$dz^2$は

$$
dz^2=(\cos\theta dr)^2+(r\sin\theta d\theta)^2-2rdrd\theta\cos\theta\sin\theta
$$

なので、$dx^2+dy^2+dz^2$は

$$
\begin{align*}
dx^2+dy^2+dz^2&=(\sin\theta\cos\phi dr)^2+(\sin\theta\sin\phi dr)^2 \\
&\qquad+(r\cos\theta\cos\phi d\theta)^2+(r\cos\theta\sin\phi d\theta)^2 \\
&\qquad+(r\sin\theta\sin\phi d\phi)^2+(r\sin\theta\cos\phi d\phi)^2 \\
&\qquad+2rdrd\theta\sin\theta\cos\theta\cos^2\phi+2rdrd\theta\sin\theta\cos\theta\sin^2\phi \\
&\qquad+(\cos\theta dr)^2+(r\sin\theta d\theta)^2-2rdrd\theta\cos\theta\sin\theta \\
&=\sin^2\theta dr^2+r^2\cos^2\theta d\theta^2+r^2\sin^2\theta d\phi^2+2rdrd\theta\sin\theta\cos\theta \\
&\qquad+\cos^2\theta dr^2+r^2\sin^2\theta d\theta^2-2rdrd\theta\cos\theta\sin\theta \\
&=dr^2(\sin^2\theta+\cos^2\theta)+r^2d\theta^2(\cos^2\theta+\sin^2\theta)+r^2\sin^2\theta d\phi^2 \\
&=dr^2+r^2d\theta^2+r^2\sin^2\theta d\phi^2 \\
&=dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)
\end{align*}
$$

これより、

$$
\begin{align*}
ds^2&=-(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})\delta_{ij}dx^idx^j \\
&=-(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})(dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2))
\end{align*}
$$

となります。

ここで、動径座標$r$を周半径$\rho$に切り替えます。

$$
(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)=\rho^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)
$$

とすると、

$$
\rho^2=(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})r^2
$$

より、

$$
\rho=r\sqrt{1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}}
$$

となります。

ところで、$r_s=\frac{2GM}{c^2}$をシュワルツシルト半径と呼びますが、ほとんどの場合、$\frac{r_s}{r}$は極端に小さな値をとります。
たとえば、地球のシュワルツシルト半径$r_s$はおよそ8.9 mm、太陽でもおよそ3.0 kmです。
このため、ブラックホールなどを除く一般的な場合なら、$\frac{r_s}{r}\approx 0$とみなしても問題ありません。

$\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}\approx 0$とみなすと、$\rho\approx r$なので、

$$
\begin{align*}
ds^2&=-(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r})(dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)) \\
&\approx -(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{\rho})dt^2+(1+\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{\rho})d\rho^2+\rho^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2) \\
&\approx -(1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{\rho})dt^2+\frac{d\rho^2}{1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{\rho}}+\rho^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)
\end{align*}
$$

最後の行の第2項については、$\frac{1}{1-x}$をマクローリン展開すると$1+x+\mathcal{O}(x^2)$となることより、$1+x\approx\frac{1}{1-x}$という近似を行いました。

ここでは時空の歪みが小さい($\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}\ll 1$)と仮定して計量を導出しましたが、実は、重力場が強い($\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}\approx 1$)場合でも、この計量はそのままでアインシュタイン方程式の真空解になることが知られています。
この解をシュワルツシルト解と呼びます。
シュワルツシルト解を改めて以下に示します。

$$
ds^2=g_{\mu\nu}dx^{\mu}dx^{\nu}=-f(r)dt^2+\frac{dr^2}{f(r)}+r^2d\Omega_{II}^2
$$

$f(r)$は

$$
f(r)=1-\frac{r_s}{r}\equiv 1-\frac{2GM}{c^2}\frac{1}{r}
$$

ここに出てくる$r_s=\frac{2GM}{c^2}$をシュワルツシルト半径と呼びます。

$d\Omega_{II}^2$は

$$
d\Omega_{II}^2\equiv d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2
$$

です。


余談

重力源である質点の近くに別の粒子があるとします。
この粒子が爆速で動いているわけではないとすると、シュワルツシルト計量は$ds^2\approx-f(r)dt^2$となります。
$ds^2$と粒子の固有時間$d\tau$の間には$d\tau^2=-ds^2$という関係があるので、

$$
\begin{align*}
d\tau&=\sqrt{f(r)}dt \\
&=\sqrt{1-\frac{r_s}{r}}dt
\end{align*}
$$

となります。

この式から、重力源である質点に近づくほど、外部から観測される時間が短くなることがわかります。
$r=r_s$となる場所にいたっては、外界でどれほど時間が経とうとも、観測される時間は変化しないことになります。
$r<r_s$となる場合については…わかりません。

強力な重力源に近づくというのは、タイムマシンを実現するための一つの可能性かもしれませんね。