ローレンツ変換
慣性系間の座標変換
ある静止系$x^{\mu}$の原点から飛ばした光を、それに対して一定速度$v^i (i=1,2,3)$で運動する慣性系で観測することを考えます。
光の経路上では$ds^2=0$となりますが、光速度不変の原理より、別の慣性系$x’^{\mu}$に移っても光の経路上で$ds’^2=0$となることが要請されます。
$$ ds^2=0 \Leftrightarrow ds’^2=-(cdt’)^2+dx’^2+dy’^2+dz’^2=0 $$
静止系$x^{\mu}$から慣性系$x’^{\mu}$に移る座標変換は、$dx^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\;\nu}(\nu)dx’^{\nu}$という一次変換で与えられます。
二次以上の項があるとその系は加速度運動をしていることになってしまうので、一次変換になります。
また、光を飛ばした位置と時間をそれぞれの座標系の原点とすることで、定数項もなくすことができます。
ここで、$ds^2=0 \Leftrightarrow ds’^2=0$より、$ds^2=Cds’^2$ という関係が成り立ちます。(要検証)
ここで登場する定数$C$について、以下の条件を満たすことが要請されます。
- 時間と空間の一様性から、時間と座標に依存しない
- 空間の等方性から慣性系間の相対速度の方向に依存しない
したがって、この定数は慣性系の速度の絶対値$|v|$のみに依存するので、$C(|v|)$と書き表すことにします。
逆変換を適用したときに元の$ds^2$に戻る必要があるので、$C(|v|)C(|-v|)=C^2(|v|)=1$より、$C(|v|)=\pm 1$ですが、$C(|v|)>0$なので、$C(|v|)=1$となります。
$C(|v|)>0$であることはそんなに自明ではないと思うので、きちんとした証明が必要だと思います。
自分の理解としては、$C(|v|)=-1$だと座標変換によって空間的規約と時間的規約が入れ替わってしまうので、$C(|v|)=1$とするのが自然な流れなのだと思っています。
以上より、$ds^2=ds’^2$という関係が成り立ちます。
ローレンツ変換
静止系$x^{\mu}$から慣性系$x’^{\mu}$に移る座標変換が$dx^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\;\nu}(\nu)dx’^{\nu}$という一次変換で与えられることを先程紹介しました。
ここでは、座標変換を行う一次変換の具体的な形を導出したいと思います。
簡単のため、時空の二次元部分$(t,x)$だけに注目することにします。
また、ローレンツ型の線素$-c^2dt^2+dx^2$の代わりにユークリッド型の線素$dl^2 \equiv d\lambda^2+dx^2$を考えます。
この二つの線素は、$d\lambda=icdt$という変換によって結ばれています。
線素$dl^2$を不変に保つ変換は、二次元平面の回転と平行移動に限られます。
二つの慣性系の原点が同じだと仮定したので、ここでは回転だけを考えることにします。
$$ \begin{gather*} dx^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\;\mu’}dx’^{\mu’} \\ (dx^{\mu})= \begin{pmatrix} d\lambda \\ dx \end{pmatrix} \end{gather*} $$
とすると、回転を行う行列$\Lambda^{\mu}_{\;\mu’}$は以下のように表されます。
$$ (\Lambda^{\mu}_{\;\mu’})= \begin{pmatrix} \cos\theta & \sin\theta \\ -\sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$
これをローレンツ型の線素に関する式に直すためには、$d\lambda=icdt$、$\theta=i\psi$と変換します。
このとき、$\cos\theta=\cos(i\psi)=\cosh\psi$、$\sin\theta=\sin(i\psi)=i\sinh\psi$となるので、
$$ \begin{gather*} dx^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\;\mu’}dx’^{\mu’} \\ (dx^{\mu})= \begin{pmatrix} cdt \\ dx \end{pmatrix} \\ (\Lambda^{\mu}_{\;\mu’})= \begin{pmatrix} \cosh\psi & \sinh\psi \\ \sinh\psi & \cosh\psi \end{pmatrix} \end{gather*} $$
$y$、$z$方向の座標には変換は発生しないと仮定すると、
$$ \begin{gather*} dx^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\;\mu’}dx’^{\mu’} \\ (dx^{\mu})= \begin{pmatrix} cdt \\ dx \\ dy \\ dz \end{pmatrix} \\ (\Lambda^{\mu}_{\;\mu’})= \begin{pmatrix} \cosh\psi & \sinh\psi & &\\ \sinh\psi & \cosh\psi & & \\ & & 1 & \\ & & & 1 \end{pmatrix} \end{gather*} $$
これを4次元ミンコフスキー空間におけるローレンツ変換(Lorentz transformation)と呼びます。
ローレンツ変換の$(t,x)$部分に注目すると、
$$ \left\{ \begin{align*} cdt&=\cosh\psi \cdot cdt’+\sinh\psi \cdot dx’\\ dx&=\sinh\psi \cdot cdt’+\cosh\psi \cdot dx’ \end{align*} \right. $$
慣性系で静止している粒子の世界線上では$dx’=0$が満たされるので、この粒子の運動を静止系で観測すると、その世界線上では、
$$ \left\{ \begin{align*} cdt&=\cosh\psi \cdot cdt’ \\ dx&=\sinh\psi \cdot cdt’ \end{align*} \right. $$
より、
$$ v \equiv \frac{dx}{dt}=c\tanh\psi $$
$\psi$は静止系から見た慣性系の速度$v$に対応していることがわかります。
ここで、
$$ \gamma \equiv \frac{1}{\sqrt{1-(\frac{v}{c})^2}} $$
とすると、ローレンツ変換の式は、
$$ (\Lambda^{\mu}_{\;\mu’})= \begin{pmatrix} \gamma & \gamma\frac{v}{c} & & \\ \gamma\frac{v}{c} & \gamma & & \\ & & 1 & \\ & & & 1 \end{pmatrix} $$
と表せます。
この係数$\gamma$をローレンツ因子(Lorentz factor)と呼びます。
ローレンツ変換を適用した後の各成分は以下のようになります。
$$ \left\{ \begin{align*} cdt&=\gamma(cdt’+\frac{v}{c}dx’) \\ dx&=\gamma(vdt’+dx’) \\ dy&=dy’ \\ dz&=dz’ \end{align*} \right. $$
$t=\gamma(t’+\frac{v}{c}x’)$に注目すると、速度$v$の慣性系で静止している時計が$t’$秒進むとき、静止系の時計は$t=\gamma t’$秒進むことがわかります。
$\gamma \geq 1$より$t \geq t’$であり、静止系の時計の方が多く進む、すなわち、速度$v$で運動している慣性系の方が時間の流れが遅くなることがわかります。
もしタイムマシンが実現可能だとしたら、このあたりが一つの可能性になりそうですね。
ローレンツ収縮
ローレンツ変換の式から、ローレンツ収縮(Lorentz contraction)という面白い現象が導かれます。
これは、運動する慣性系にある棒を静止系から観測すると、棒の長さが縮んで見える、という現象です。
$x$方向に一定速度$v$で運動する慣性系にある長さ$L’$の棒について、その長さを静止系の時刻$t=0$で計測することを考えます。
慣性系の時刻$t’=0$において棒の両端が$(t’,x’)=(0,0),(0,L’)$にあるとします。
ローレンツ変換の式
$$ \left\{ \begin{align*} t&=\gamma(t’+\frac{v}{c^2}x’) \\ x&=\gamma(vt’+x’) \end{align*} \right. $$
より、静止系における棒の両端は$(t,x)=(0,0),(\gamma\frac{v}{c^2}L’,\gamma L’)$にあります。
棒の右端の位置を時刻$t=0$まで戻すと、
$$ \begin{align*} x(t=0)&=x-vt \\ &=\gamma L’-v\gamma\frac{v}{c^2}L’ \\ &=\gamma(1-(\frac{v}{c})^2)L’ \\ &=\frac{L’}{\gamma} \end{align*} $$
したがって、時刻$t=0$で棒の両端の位置を読み取って長さを測ると、静止時の長さ$L’$の$\frac{1}{\gamma}$倍に縮んで見えることになります。
相対性理論においては、これは実際に棒が縮んでいるわけではなく、慣性系によって測定している場所が異なることによって起こる現象であると解釈されるらしいです。