エネルギー・運動量テンソル

2023年4月15日

定義

特殊相対性理論の記事で紹介したように、質量$m$の質点がもつエネルギーは$E=\gamma mc^2$、運動量は$p^i=\gamma mv^i$と表されます。

ここで、質点ではなく、質量が連続した密度分布をもつと考えます。
特殊相対性理論において、質量とエネルギーは等価であることが示されたので、質量分布の代わりにエネルギーの密度を考えることにします。
また同時に、単位体積あたりに存在する運動量を表す運動量密度という概念も導入することにします。

密度$\rho$の連続体のエネルギー密度は$\gamma\cdot\gamma\rho c^2=\gamma^2\rho c^2$となります。
質点のエネルギーを表す式の$m$を$\rho$に変えますが、今考えているのは連続体なので、ローレンツ収縮を考慮する必要があります。
ローレンツ収縮によって連続体は$\frac{1}{\gamma}$倍に収縮するので、エネルギー密度は$\gamma$倍になります。
同様に、運動量密度も$\gamma$倍の$\gamma^2\rho v$となります。

エネルギー密度$\epsilon$と運動量密度$\pi$を4元速度$u^{\mu}$を用いて表すことにします。
特殊相対性理論の記事では、4元速度の時間成分を$u^t=\gamma c$、空間成分を$u^i=\gamma v^i$としましたが、ここでは$u^t=\gamma$、$u^i=\gamma\frac{v^i}{c}$とし、光速を基準とした(光速が1となる)速度を考えることにします。
4元速度をこのように正規化しておかないと後で参考資料の記載と合わなくなる、というだけの話なので、あまり大きな意味はありません。

4元速度を用いると、エネルギー密度は、

$$ \epsilon=\gamma^2\rho c^2=u^0u^0\rho c^2 $$

$x$方向の運動量密度は、

$$ \pi_x=\gamma^2\rho v_x=\gamma\cdot\gamma\frac{v_x}{c}\cdot\rho c=u^0u^1\rho c $$

同様に、$\pi_y=u^0u^2\rho c$、$\pi_z=u^0u^3\rho c$となります。

4元速度の成分の積が共通して出てくるので、以下のような行列を考えます。

$$ T^{\mu\nu}=\rho c^2 \begin{pmatrix} u^0u^0 & u^0u^1 & u^0u^2 & u^0u^3 \\ u^1u^0 & u^1u^1 & u^1u^2 & u^1u^3 \\ u^2u^0 & u^2u^1 & u^2u^2 & u^2u^3 \\ u^3u^0 & u^3u^1 & u^3u^2 & u^3u^3 \end{pmatrix} $$

これをエネルギー・運動量テンソルと呼びます。

エネルギー密度$\epsilon$と運動量密度$\pi$は以下のような形でこの行列に取り込まれています。

$$ T^{\mu\nu}= \begin{pmatrix} \epsilon & c\pi_x & c\pi_y & c\pi_z \\ c\pi_x & \rho c^2u^1u^1 & \rho c^2 u^1u^2 & \rho c^2u^1u^3 \\ c\pi_y & \rho c^2u^2u^1 & \rho c^2 u^2u^2 & \rho c^2u^2u^3 \\ c\pi_z & \rho c^2u^3u^1 & \rho c^2 u^3u^2 & \rho c^2u^3u^3 \end{pmatrix} $$

エネルギー・運動量保存の式

エネルギー・運動量テンソルの要素$T^{01}$を見てみると、

$$ T^{01}=c\pi_x=c\gamma^2\rho v_x=\frac{1}{c}\cdot\gamma^2\rho c^2\cdot v_x=\frac{1}{c}\epsilon v_x $$

となります。

$\epsilon v_x$は$1\times1\times v_x$の体積に含まれるエネルギー量なので、$T^{01}$は面積が$1\times1$の$yz$平面を通って単位時間あたりに$x$方向へ通り過ぎるエネルギー量を$c$で割ったものです。
このことから、$T^{01}dydz$は面積が$dydz$の大きさの$yz$平面を通って単位時間あたりに$x$方向へ通り過ぎるエネルギー量を$c$で割ったものになります。
これを$x$で微分して$dx$をかけてやれば、$dx$だけ離れた二点のエネルギーの流量の差が求められます。

$$ \frac{\partial T^{01}}{\partial x}dxdydz $$

$y$方向と$z$方向からの流入・流出も考えられるので、

$$ (\frac{\partial T^{01}}{\partial x}+\frac{\partial T^{02}}{\partial y}+\frac{\partial T^{03}}{\partial z})dxdydz $$

これは、微小体積$dV=dxdydz$に単位時間あたりに出入りしているエネルギーの量を表しています。

一方、エネルギー密度$\epsilon$を用いるとこの量は$\frac{1}{c}\epsilon dV$と表されます。
これを$T^{00}$を用いて表すと、$\frac{1}{c}\epsilon dV=\frac{1}{c}T^{00}dV$となります。
したがって、

$$ (\frac{\partial T^{01}}{\partial x}+\frac{\partial T^{02}}{\partial y}+\frac{\partial T^{03}}{\partial z})dxdydz=-\frac{1}{c}\frac{\partial T^{00}}{\partial t}dV $$

となります。
エネルギーが大きくなれば運動量は小さくなるので、右辺の符号はマイナスとなっています。

この式を整理すると、

$$ (\frac{\partial T^{00}}{\partial(ct)}+\frac{\partial T^{01}}{\partial x}+\frac{\partial T^{02}}{\partial y}+\frac{\partial T^{03}}{\partial z})=0 $$

となり、アインシュタインの縮約記法を用いれば、

$$ \partial_{\mu}T^{0\mu}=0 $$

となります。

運動量保存の式も同じように導出できます。

$$ T^{11}=\rho c^2u^1u^1=\rho c^2\cdot\frac{\gamma v_x}{c}\frac{\gamma v_x}{c}=\gamma^2\rho v_xv_x=\pi_xv_x $$

単位時間あたりに出入りする運動量は、

$$ (\frac{\partial T^{11}}{\partial x}+\frac{\partial T^{12}}{\partial y}+\frac{\partial T^{13}}{\partial z})dxdydz $$

運動量密度$\pi_x$を用いると、この量は$\pi_xdV$と表されます。
これを$T^{10}$を用いて表すと、$\pi_xdV=\frac{1}{c}T^{10}dV$となります。
したがって、

$$ (\frac{\partial T^{11}}{\partial x}+\frac{\partial T^{12}}{\partial y}+\frac{\partial T^{13}}{\partial z})dxdydz=-\frac{1}{c}\frac{\partial T^{10}}{\partial t}dV $$

より、

$$ \partial_{\mu}T^{1\mu}=0 $$

となります。

$y$方向と$z$方向についても同様に、$\partial_{\mu}T^{2\mu}=0$、$\partial_{\mu}T^{3\mu}=0$が成り立ちます。

以上より、エネルギー・運動量保存の式は$\partial_{\nu}T^{\mu\nu}=0$と表されることになります。