格変化─呼格、処格、分格
この章では呼格、処格、分格の三つの格を紹介します。
これらの格はすべての名詞に存在するわけではなく、また、独立した格として扱われない場合もあります。
呼格
呼格(зва́тельный падеж; vocative)は呼びかけに用いる格で、「~よ!」という意味を表します。
呼格は主格の一種とみなされます。
一部の慣用表現を除いて呼格が用いられることはほぼなく、代わりに主格を用いて呼びかけを行うことが多いです。
現在のロシア語で目にすることがあるのはおそらく以下の二つのみです。
- бог [бох]→бо́же「神よ!」
- госпо́дь→го́споди「主よ!」
богの単数主格では、гが[х]と発音されます。
それ以外の格では文字通り[г]と発音されます。
これらの呼格を用いた以下のような表現があります。
- Боже мой!「なんてことだ!」(Oh my God!)
- Господи!「なんてことだ!」(Jesus!)
処格
処格(ме́стный падеж; locative)は位置を表す格で、「~で/に」という意味を表します。
в / на + 前置格で位置を表すことができますが、一部の名詞は前置格の特別な形として処格をもちます。
処格は前置格の一種ですが、位置を表す場合にのみ用いられます。
処格をもつ名詞であっても代わりに普通の前置格が用いられることも多いです。
出現頻度が高いと思われる処格を用いた表現をいくつか紹介します。
- в лесу́「森(лес)で」
- в раю́「楽園(рай)で」
- в саду́「庭(сад)で」
- в порту́「港(порт)で」
- на снегу́「雪(снег)の上で」
- на мосту́「橋(мост)で」
分格
分格(раздели́тельный падеж; partitive)は全体の一部分を表す格で、生格の一種とみなされます。
分格は第二生格と呼ばれることもあります。
もともと生格には全体の一部分を表す用法があり、一部の名詞には全体の一部分を表すために分格という特別な形があります。
ただし、分格をもつ名詞であっても普通の生格が用いられることも多いです。
完了体の動詞では、動作が目的語の全体に及ぶときは対格、一部のみに及ぶときは生格(分格)を用います。
以下に分格を用いた例をいくつか紹介します。
- вы́пить ча́ю / ча́я「茶を飲み干す」(分格/生格)
- нали́ть ча́ю / ча́я「茶を注ぐ」(分格/生格)
- мно́го наро́ду「多くの人々」(分格)
分格をもたない語では、生格を用いて部分を表します。
- Я вы́пил воды́.「私は水を飲み干した」
- Дай мне де́нег.「私に金をくれ」
де́негはде́ньгиの生格です。
最後に、分格が用いられる慣用表現をいくつか紹介しておきます。
- ни ра́зу「一度も~ない」
- и́з дому「自宅から」
- с гла́зу на глаз「一対一で、内密に」
- со стра́ху「恐怖から、恐れて」