アインシュタイン方程式の係数を求める

2023年1月7日

導入

ニュートン力学では物質密度$\rho$が重力ポテンシャル$\phi$を作ると考えます。
重力ポテンシャル$\phi$は以下の式で表されます。

$$
\delta^{ij}\frac{\partial^2\phi}{\partial x^i \partial x^j}=4\pi G\rho
$$

$G$は重力定数です。

この式の左辺をナブラを用いて以下のように簡潔に表記することにします。

$$
\nabla^2\phi=4\pi G\rho
$$

アインシュタイン方程式がニュートン的極限においてこの式を再現するようにしたいです。

エネルギー・運動量テンソル

以前の記事で紹介したとおり、エネルギー・運動量テンソルは$T^{\mu\nu}=\rho c^2u^{\mu}u^{\nu}$と表されます。
4元速度の時間成分は$u^t=\gamma$、空間成分は$u^i=\gamma\frac{v^i}{c}$と定義したので、ニュートン近似($\frac{v}{c}\approx 0$)では$u^t=1$、$u^i=0$となります。
したがって、$T^{00}=\rho c^2$以外の成分はすべて0になります。

リッチテンソルを計算する

リッチテンソル$R_{\mu\nu}$を計算したいと思います。

$$
\left\{
\begin{align*}
&R_{\mu\nu}=g^{\rho\sigma}R_{\mu\rho\nu\sigma} \\ &R_{\mu\rho\nu\sigma}=R_{\mu\rho\nu}^{\quad\sigma’}g_{\sigma’\sigma}
\end{align*}
\right.
$$

より、

$$
R_{\mu\nu}=g^{\rho\sigma}R_{\mu\rho\nu}^{\quad\sigma’}g_{\sigma’\sigma}=R_{\mu\rho\nu}^{\quad\rho}
$$

となります。

$$
R_{\mu\rho\nu}^{\quad\rho}=\frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\mu\nu}}{\partial x^{\rho}}-\frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\rho\nu}}{\partial x^{\mu}}+\Gamma^{\alpha}_{\mu\nu}\Gamma^{\rho}_{\alpha\rho}-\Gamma^{\alpha}_{\rho\nu}\Gamma^{\rho}_{\alpha\mu}
$$

となるので、まずはクリストッフェル記号を計算していきます。

$$
\left\{
\begin{align*}
\Gamma^{\rho}_{\mu\nu}&=\frac{1}{2}g^{\rho\sigma}(\frac{\partial g_{\nu\sigma}}{\partial x^{\mu}}+\frac{\partial g_{\mu\sigma}}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial g_{\mu\nu}}{\partial x^{\sigma}}) \\
\Gamma^{\rho}_{\rho\nu}&=\frac{1}{2}g^{\rho\sigma}(\frac{\partial g_{\nu\sigma}}{\partial x^{\rho}}+\frac{\partial g_{\rho\sigma}}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial g_{\rho\nu}}{\partial x^{\sigma}})
\end{align*}
\right.
$$

時空の歪みが小さい場合には計量$g_{\mu\nu}$を平坦計量$\eta_{\mu\nu}$で近似できるので、微小量$h_{\mu\nu}$を用いて、$g_{\mu\nu}=\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu}$と表します。
クリストッフェル記号の式に$g_{\mu\nu}=\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu}$を代入します。

$$
\begin{align*}
\Gamma^{\rho}_{\mu\nu}&=\frac{1}{2}(\eta^{\rho\sigma}+h^{\rho\sigma})(\frac{\partial(\eta_{\nu\sigma}+h_{\nu\sigma})}{\partial x^{\mu}}+\frac{\partial(\eta_{\mu\sigma}+h_{\mu\sigma})}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial(\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu})}{\partial x^{\sigma}}) \\
&=\frac{1}{2}(\eta^{\rho\sigma}+h^{\rho\sigma})(\frac{\partial h_{\nu\sigma}}{\partial x^{\mu}}+\frac{\partial h_{\mu\sigma}}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial h_{\mu\nu}}{\partial x^{\sigma}})
\end{align*}
$$

定数である$\eta_{\mu\nu}$の微分は消えて、$h_{\mu\nu}$の微分だけが残ります。

二つ目の括弧の中は$h_{\mu\nu}$の微分であり、微小量です。
それに$h_{\mu\nu}$をかけたものは2次の微小量になるので、消してしまいます。

$$
\Gamma^{\rho}_{\mu\nu}\approx\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(\frac{\partial h_{\nu\sigma}}{\partial x^{\mu}}+\frac{\partial h_{\mu\sigma}}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial h_{\mu\nu}}{\partial x^{\sigma}})
$$

同様にして、$\Gamma^{\rho}_{\rho\nu}$は

$$
\Gamma^{\rho}_{\rho\nu}\approx\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(\frac{\partial h_{\nu\sigma}}{\partial x^{\rho}}+\frac{\partial h_{\rho\sigma}}{\partial x^{\nu}}-\frac{\partial h_{\rho\nu}}{\partial x^{\sigma}})
$$

となります。

$R_{\mu\rho\nu}^{\quad\rho}$の式に出てくるクリストッフェル記号の積は2次の微小量になるので消して、

$$
R_{\mu\rho\nu}^{\quad\rho}\approx \frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\mu\nu}}{\partial x^{\rho}}-\frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\rho\nu}}{\partial x^{\mu}}
$$

とします。

したがって、

$$
\begin{align*}
R_{\mu\nu}&=R_{\mu\rho\nu}^{\quad\rho} \\
&\approx \frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\mu\nu}}{\partial x^{\rho}}-\frac{\partial \Gamma^{\rho}_{\rho\nu}}{\partial x^{\mu}} \\
&=\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(\frac{\partial^2 h_{\nu\sigma}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\mu}}+\frac{\partial^2 h_{\mu\sigma}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\nu}}-\frac{\partial^2 h_{\mu\nu}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\sigma}}-\frac{\partial^2 h_{\nu\sigma}}{\partial x^{\mu}\partial x^{\rho}}-\frac{\partial^2 h_{\rho\sigma}}{\partial x^{\mu}\partial x^{\nu}}+\frac{\partial^2 h_{\rho\nu}}{\partial x^{\mu}\partial x^{\sigma}}) \\
&=\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(\frac{\partial^2 h_{\mu\sigma}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\nu}}-\frac{\partial^2 h_{\mu\nu}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\sigma}}-\frac{\partial^2 h_{\rho\sigma}}{\partial x^{\mu}\partial x^{\nu}}+\frac{\partial^2 h_{\rho\nu}}{\partial x^{\mu}\partial x^{\sigma}})
\end{align*}
$$

係数$\kappa$を求める

以前の記事で紹介したとおり、ニュートン近似では$h_{00}=-\frac{2}{c^2}\phi$となるので、ここでは$h_{00}$の振る舞いについて考えることにします。
$R_{00}$に注目すると$h_{00}$が出てくる項以外を消せるので、$R_{00}$を計算してみます。

$$
\begin{align*}
R_{00}&\approx \frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(\frac{\partial^2 h_{0\sigma}}{\partial x^{\rho}\partial x^0}-\frac{\partial^2 h_{00}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\sigma}}-\frac{\partial^2 h_{\rho\sigma}}{\partial x^0\partial x^0}+\frac{\partial^2 h_{\rho 0}}{\partial x^0\partial x^{\sigma}}) \\
&=\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}(-\frac{\partial^2 h_{00}}{\partial x^{\rho}\partial x^{\sigma}}) \\
&=-\frac{1}{2}\eta^{\rho\sigma}\partial_{\rho}\partial_{\sigma}h_{00} \\
&=-\frac{1}{2}(-\partial_0^2+\partial_i\partial^i)h_{00} \\
&=-\frac{1}{2}\partial_i\partial^ih_{00} \\
&=-\frac{1}{2}\nabla^2h_{00}
\end{align*}
$$

管理人は一行目から二行目への式変形がなぜそうなるのか理解できなくて、三日くらい悩んでいました。
自分はすっかり忘れていたのですが、今考えているのはニュートン近似です。
ニュートン近似では重力場は時間的に変化しないと仮定したので、$\partial_0 g_{\mu\nu}=0$すなわち$\partial_0 h_{\mu\nu}=0$が成り立つのでした。
このことから、$\partial_0$が含まれる項はすべて0になって消えてしまうのです。

変形されたアインシュタイン方程式より、

$$
R_{\mu\nu}=\kappa(T_{\mu\nu}-\frac{1}{2}g_{\mu\nu}T)
$$

なので、

$$
\begin{align*}
R_{00}&=\kappa(T_{00}-\frac{1}{2}g_{00}g_{00}T^{00}) \\
&=\kappa(c^2\rho-\frac{1}{2}(\eta_{00}+h_{00})(\eta_{00}+h_{00})c^2\rho) \\
&=\kappa(c^2\rho-\frac{1}{2}(-1+h_{00})(-1+h_{00})c^2\rho) \\
&\approx \kappa(c^2\rho-\frac{1}{2}c^2\rho+h_{00}c^2\rho) \\
&=\frac{1}{2}\kappa c^2\rho+\kappa c^2\rho h_{00} \\
&\approx \frac{1}{2}\kappa c^2\rho
\end{align*}
$$

したがって、

$$
-\frac{1}{2}\nabla^2h_{00}=\frac{1}{2}\kappa c^2\rho
$$

となります。

ここに$h_{00}=-\frac{2}{c^2}\phi$を代入すると、

$$
-\frac{1}{2}\nabla^2(-\frac{2}{c^2}\phi)=\frac{1}{2}\kappa c^2\rho
$$

より、

$$
\nabla^2\phi=\kappa\frac{c^4\rho}{2}
$$

となります。

ニュートン力学における重力ポテンシャル$\phi$は$\nabla^2\phi=4\pi G\rho$で表されるので、

$$
\kappa\frac{c^4\rho}{2}=4\pi G\rho
$$

となればよさそうです。

以上より、係数$\kappa$は

$$
\kappa=\frac{8\pi G}{c^4}
$$

となり、アインシュタイン方程式は

$$
R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}g^{\mu\nu}R=\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}
$$

と表されることになります。

余談

アインシュタイン方程式の係数$\kappa$を導出する過程で近似したり微小量を捨てたりしたので、ここで求めた係数が本当に正しいものなのか、という点については少し疑問に思いました。
ただ、実際の物理現象を観測すると、アインシュタイン方程式から予想されるとおりになっているようなので、結果としては、この世界はどうやらそういうふうにできているらしい、ということになるのでしょうか。

あんまり関係ないですが、この記事を書いているときに思い出したアニメのセリフがあるので、締めくくりとして紹介しておきます。

この世界の誰一人、見たことがないものがある
それは優しくて、とても甘い
たぶん見ることができたなら、誰もがそれをほしがるはずだ
だからこそ、誰もそれを見たことがない
そう簡単に手に入れられないように、世界はそれを隠したのだ
だけどいつかは誰かが見つける
手に入れるべきたった一人が、ちゃんとそれを見つけられる
そういうふうに、できている

アニメ「とらドラ!」